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気付く女
数年前に東京の郊外の街に引っ越してきた。
28のときにはこんなところで暮らすようになるなんて想像もしていなかった。

ヒロフミはわたしの幼馴染でわたしと同じド田舎で育った。わたしよりも先に東京に出てきていて、まあまあ都会のほうでまあまあいい生活をしている(ように見える)。
わたしたちはときどき連絡をとってときどきふたりで食事をする。故郷のはなしはあまりしない。お互いの家に行ったりもしない。

ほんの短い間だったけど、彼と「親密な間柄」だったことがある。わたしが大阪にいたときのことだから10年近くも前のことだ。しばらくして彼は転職で東京に移ることになり、わたしたちはまたもとの幼馴染に戻った。
それからまた何年か経って今度はわたしが東京に引っ越すことになったのだけれど、そのことと、彼が東京にいることとはまったく関係はない。

新しい暮らしに馴染んできたころ、彼に引っ越してきたことを伝えた。それで彼から「それならひさしぶりに会おう」というメールが来たのだったと思うのだけれどそのへんのことはよく覚えていない。とにかくそれからときどき(二ヶ月のときもあれば半年顔をみないこともある)ふたりで会っている。

東京の街にはなかなか慣れなくて、ふたりで会う場所はいつもヒロフミに決めてもらう。その日もはじめての駅で降りて、彼が選んだ、小さなビルの二階にある狭い店で飲んでいた。
会話がとぎれてそのまま黙って箸を遊ばせていたら彼の携帯が鳴った。
「飲んでいるからお前も来い、だって」
「会社のひと?」
「地元の友達。こっちに住んでる」
「地元の?そんなひといたんだ」
話を聞くうちに、その友人というのがわたしの高校の同級生だということがわかった。なんとなくだが顔も思い浮かぶ。
「すごい偶然」
元クラスメイトのフジキ君はわたしのことなんて覚えていないだろうけど面白そうだから行ってみようということになった。

電車で15分、連れて行かれたのはわたしのよく知っている店だった。友達のトモコの母親が経営している。ヒロフミははじめてきたみたいだったけど、この偶然の重なりをあやしいと思った。だけどだれかがなにかをたくらんでいるようなかんじもなかった。
通されたのは暗い廊下の奥にある個室で、部屋の広さに比べると大きすぎるテーブルの前にフジキ君とトモコが並んで座っていた。
「ふたりだけ?」「もうひとりは今トイレ」
わたしがフジキ君にはじめましての挨拶をするとヒロフミが「いっしょの高校行ってたって」と言った。けれど、それで学生時代の思い出を語り合うということにはならなかった。わたしが話そうとしなかったからだ。フジキ君がわたしのことを覚えていたのかどうかはわからない。

飲み物を運んできた店員が部屋を出るのと同時に、「もうひとり」がトイレから戻ってきた。
「ヨウスケ!なんで!」「ヨウスケじゃなくてヨウスケの兄です」
わたしはヨウスケにお兄さんがいることを知らなかったけれど彼はわたしのことを知っているみたいだった。ヨウスケ兄はヨウスケと同じ顔をしていたけど、ヨウスケよりも明るいかんじがした。

ここにいるひとたちが、どこで知り合ったのか、どういう繋がりなのか、ということはすこし気になったけれどそのときは聞かなかった。わたしがここにいる全員を知っている(ヨウスケ兄にははじめて会ったけど)のは「たまたま」なのだろうか。

とくべつ珍しい話題も、とくべつに面白い話もなくてわたしたちは静かにお酒を飲んだ。どうしてそういう流れになったのか覚えていないけれど、クリスマスの話になって、ヒロフミが「そのころには結婚しているかもしれない」と言った。
ヒロフミに彼女がいることは知っている。会ったことはない。彼は恋人の話なんてあまりしないけれど、けっこう長く付き合っているようだった。
わたしとふたりで会うときは彼女になんと言って出てきているのだろう。「東京に出てきている、幼馴染の女とときどき会っている」というのはもしかしたら言わないほうがいいのかもしれない。

「それはおめでたいね」と誰かがいったとき、「そんなのわたしとすればいいじゃない!!」とわたしは口走っていた。ヒロフミもみんなも「なんでお前なんだよ」って笑っていたけど、わたしは自分の言葉に驚いて、ぜんぜん笑えなかった。
冗談ではなかったのだ。
わたしはそんなことを言ったことに自分で驚いて、それが本気だったことにまた驚いた。考えて出した言葉ではなかった。
わたしの本気はそのまま笑って流されて、わたしもてきとうにごまかしながらから揚げなんかをつついていたけど、油断するとまたなにかおかしなことをしゃべってしまいそうだった。

トモコがトイレに立ったので追いかけて部屋を出た。
「ねえ、さっきの、わたし本気だったんだよ」
「さっきの、ってわたしと結婚すれば、っていうやつ?」
「そう。わたし、このひとと結婚したいって本当にそう思ったし、ヒロフミはわたしと結婚するべきだって思ったの。しないといけない、って」
「ずっとそう思ってたの?」
「ううん、そんなこと考えたことなかった、今まで。ほんとに。だからさっき自分でびっくりしたんだ。でも気付いたらあんなこと言ってた。今も動揺してるけど、たぶん、本気」
「そっかー」とトモコがつぶやくと、中二階?に布団を敷いて寝ていたトモコのお母さんが「そっかー。ミーコ本気かー」と言った。それをきいた瞬間、「あ、わたし結婚してるわ!」てことを思い出した。「え?ちょーまって?わたしもう結婚してるやん!あかんやん。なんで忘れてた?ええー?ちょー」


っていう夢。
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