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拾う女

夕食の支度をしようと米を研いだら、それだけでなんだかめんどうくさくなってしまったのでダイニングでぼんやりしていたら電話が鳴った。
「(近くの)コンビニまで帰ってるんだけど、ちょっと出て来られない?」
電は男からだった。コンビニというのは家から歩いて3分ほどのところだ。そこまで来ているなら家に帰ってくればいいのに、と思いながら「わかった」といって電話を切った。
コンビニの周りには駐車場と住宅と小さな事務所があるだけだし、コンビニにわざわざわたしを呼び出さないといけないものがあるようにも思えない。なんだろうと思いながら靴を履いて、あ、そうだ、とメールを送った。「手ぶらでいい?」
「パンがあれば持ってきて欲しい」という返事がすぐに来た。パン。


食パンの入った袋を提げて交差点を曲がると、男が困った顔で立っていた。

「おなかが空いて動けないのかい?」
「いや・・・これ、拾っちゃって」
「そんなのどうするつもりなの」
「だって落ちてたから」

男が拾ったのは鳥の雛だった。飛行訓練?に失敗してうずくまっていたところを見つけたらしい。
雛はまったく飛べないというわけではなくて低いところでバサバサやるのだけれど、ふらふらとあぶなっかしい。すぐ脇は道路でこの時間は交通量も多い。
「よろよろ車道に出ちゃったら車にはねられるし、こんなところでばたばたしてたら猫に捕られるかもしれない」

そこはちょうど使われていない建物の駐車場だったから、わたしたちは雛を囲んでしゃかみこんだ。
「パンある?」
「あるよ。パンもあるし水もあるしキャットフードもある。それを入れるお皿もね」
「さすがだね」
「だって、パンが欲しい、っていうから。ああ、あいつ何か拾ったんだなって思った」
「さすがだね」
「まあね」
ピーピー鳴いている雛の口にちぎったパンを放り込んでみたけれど、雛は「ちょっと今それどころじゃない!」という顔をしているように見えた。


近くの動物病院に持ち込んで雛の様子を診てもらうと、怪我もなくとりあえずは元気だということだった。「巣から落ちた雛は(保護しないと)だいたい死にます」と先生が言った。病院の飼い猫が興奮して鳥かごをつついた。
「野鳥を飼ってはいけないということは知っているのですが、飛べるようになるまで保護するということはできるのでしょうか」
男がそう聞くと先生は「できるならぜひそうしてください」といって、雛は病院の鳥かごから男の手の中に戻ってきた。
「持って帰るって言ったら、先生、助かるわーって顔してたね」
「まあ先生も忙しいだろうから」

そのままホームセンターに鳥かごと餌を買いにいく。店員さんが「常温に置いておかないでください。育っちゃうと全部成虫になってぞろぞろ・・・」とおそろしいことをいいながら小さな芋虫をくれた。


すぐに放さないといけないのに情がうつってしまうからやめておけば、というのを無視して雛に名前をつけた。
人間の与えるものを食べるのか心配したけれど「ぼんじり」は大きな口を開けて幼虫を何度も飲み込み、かくんと首を揺らせると食べながら眠ってしまった。
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